2018年に東映を退社された元プロデューサー鈴木武幸氏の回顧録ですが、氏が携わったスーパー戦隊シリーズ15作品の挑戦と発展の歴史としても読め、めっぽう面白かったです。
鈴木氏がプロデューサーとして制作したスーパー戦隊は『太陽戦隊サンバルカン』から『超力戦隊オーレンジャー』までですが、昭和のスーパー戦隊に育てられた私は当時から「番組のクレジットに最初に名前が出て来る『鈴木武幸』ってどんな人?」と疑問を抱いていたので、この著書を読むことで少しだけ人となりが知れたようで嬉しかったです。
400ページ近い分厚さですが、作品ごとに区切られた構成、柔らかい語り口や読みやすい紙面、豊富な図録であっという間に読み進められましたよ。
東映キャラクター作品の歩み
鈴木氏が東映に入社した1968年ごろは映画からテレビへと人気が移ろい始めた時期で、会社も映画制作スタッフをテレビ部へ移動していたといいます。
テレビ部には作品につかない余剰人員が人件費を圧迫しており、赤字で苦しんでいたため、利益を出すためにキャラクター作品の制作を始めました。番組だけでなく、版権で稼ごうというという目論見です。
当初は作品を作れどもヒット作に恵まれず赤字が膨らむばかりだったものの、『仮面ライダー』の大ヒットで一気に形勢逆転、キャラクター作品花盛りとなります。
今では豊富なキャラクタービジネスを手がけている東映ですが、そのきっかけが苦境に追い込まれたゆえの苦肉の策だったとは面白いものです。
『仮面ライダー』後も潤沢な予算とはいかず、プロデューサーとしての苦労も大変なものだったと思われます。
人件費を抑えるため「変身しないヒーロー」となった『アクマイザー3』、ヒーローではなくSFファミリー作品を目指した『冒険ファミリー ここは惑星0番地』などを制作した経験から、「最低限の予算がないと良い特撮番組はつくれない」と繰り返し述べられています。
アニメ制作さえも糧にする
その後も連綿と特撮ヒーロー作品を送り出してきた東映テレビ部ですが、実写にこだわらずヒット作を生み出すことを第一としたため、鈴木氏もアニメ作品に携わることになりました。
東映には東映動画というアニメ制作部門がありましたが、すでに多作品の制作に忙しく、ほかのアニメ会社に制作を依頼することになります。
鈴木氏はアニメ作品の担当は初めてで不安の中での出発だったようですが、それまでの経験を次々と活かしていきます。
実写作品のようにアニメでも殺陣師をつけて迫力あるアクションシーンを生み出したり、アニメ作品の効果音に物足りなさを感じると実写での音響演出担当者を引き込んできます。
また、後にスーパー戦隊シリーズを担当した際には、アニメ作品で出会ったスタッフに依頼してそれまでの特撮ヒーロー作品にはない斬新な風を取り入れています。
スーパー戦隊シリーズの初期〜中期にこういった柔軟な考えや実行力のあるプロデューサーが担当していたことは、現在に至るまで子どもたちを魅了し続けてきた一因であるかもしれません。
進化し続けるスーパー戦隊シリーズ
『太陽戦隊サンバルカン』から15年連続でスーパー戦隊のプロデューサーを務めることになった鈴木氏。
氏が本格的実写ヒーロー番組を手がけるのは5年ぶりとなりますが、『太陽戦隊サンバルカン』を従来の5人から男性のみ3人編成にするなど、思い切った差別化を図るところに鈴木氏の意気込みが伝わってきます。
その後のシリーズも、マンネリ化を防ぎ子どもたちを飽きさせない工夫をこらす奮闘の甲斐あってか、現在まで途切れることなく視聴者を魅了し続けてきました。
本書では半分以上のページがスーパー戦隊シリーズに割かれ、その制作事情やプロデューサーの思惑などが活き活きと書かれています。
なかには、今まで詳細に説明されていなかったことや伝わってこなかった想いまでが吐露されており、スーパー戦隊シリーズのファンならずとも、クリエイターを目指す人なども面白く読めることと思います。
また、本書を読むとプロデューサーの仕事が非常に多岐に渡ることに唖然とします。番組の総責任者としての立場でありながら番組がまとまるように細かいところまで気遣っていることがよくわかります。
たとえば泊りがけでのロケは予算も手配も規模が大きくなるため手間がかかるのですが、鈴木氏はスタッフ・キャストの交流を図るためになるべく敢行していたそうです。
番組制作の采配だけでなく、番組に関わる人たち一人ひとりが気持ちよく仕事ができるような気配りまで考えていて、プロデューサーとはまさしく番組の親なのだと深く思いました。